世田谷にある有名な映画製作会社、
その美術担当様からのご依頼です。
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古いカセットウォークマンを修理して欲しいとのこと。映画なのか
テレビ番組なのか、そこで小道具として使用されるそうです。
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さすが美術ご担当だけあって、梱包が丁寧かつ
厳重です。よほど重要なアイテムなのでしょう。
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完全に動作するウォークマンで、しかも
ピンク色でなければならないそうです。
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外観的にはほとんど汚れも傷もなく、古びた印象は感じません。スタイリッシュに
デザインされた本体は現在でも通用するでしょう。ですが、全く動作しないそうです。
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型番を確認します。WM-20、1983年(昭和58年)
発売、CMにデビュー3年目の松田聖子が起用されました。
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テープ非収納時のサイズがカセットと
同サイズ、操作ボタンが斜めに並びます。
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テープをセットするにはホルダーを一段
下方向に引き出します(スライドイン方式)。
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ホルダーのカバー部分を上に
開けてテープをセットします。
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UM-3乾電池1本(1.5V)で駆動させるため、
回路やモーターが大幅に改良されています。
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実際に乾電池をセットしてみます。
お聞きしていた通り全く動作しません。
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単純な原因から探っていきます。乾電池
ホルダー金具の接触は良好でしょうか。
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マイナス極側の金具に腐食が見られます。
弾性も低下し乾電池の固定に不安があります。
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乾電池ホルダーに不安があるので
外部電源用端子を利用します。
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電源を接続するも何の反応もありません。
回路に電源が供給されていないようです。
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分解して内部を点検します。当時のウォークマンは極薄の
アルミ合金製ボディが小ネジで組み立てられています。
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全てのネジに精密ドライバーが必要
です。テープホルダーが外れてきます。
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片方向再生のシンプルなヘッド、ピンチローラー、
キャプスタンが並びます。特に劣化は見られません。
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PLAYボタンを操作してみます。ヘッドと
ピンチローラーが所定位置に出てきます。
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さらに本体カバーを外します。本体外に
取り付けられた音量調整ツマミが邪魔です。
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ピンセットの先を穴に入れて回転させ
ツマミの固定ネジを緩めます。
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音量目盛りが刻印されたツマミを外し
ます。真下に可変抵抗器が見えます。
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本体カバーは4本の小ネジで
内部ユニットに固定されています。
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内部ユニットが浮き上がってきます。
微細な構造なので慎重に分離させます。
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側面にテープタイプ選択とドルビーのスイッチがあり、
小型パーツがスライドスイッチを外部に中継しています。
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ゴムベルトが完全にダメです。モーター回転軸のプーリーから脱落し、
伸び切ってヨレヨレの状態です。純正相当品の入手は難しいでしょう。
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よれた状態でゴムが固着しかかっています。
脱落してから相当の時間が経っているようです。
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0.8mm角くらいの極細ベルトです。工房の
在庫品に近いものがあると良いのですが。
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ひと回り太いものですが、何とかサイズの合う
ものがありました。ぎりぎりプーリー溝に入ります。
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軸受の滑りが一様に鈍化しています。
ギヤの隙間から微量の潤滑剤を入れます。
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SONY渾身の超扁平薄型モーターです。ステーターの
内部にゴミが入り込んでいないか点検します。
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軽くエアーでブローしておきます。
特に問題はないようです。
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電源が供給されない原因がまだ判明しません。電源回路およびモーター駆動回路が
組み込まれた基板です。一部にフレキシブル配線が用いられています(写真左下)。
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ACジャック横のフレキシブル配線です。
何故か中央で折れ曲がっています。
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最初から曲がっているのではなく、後から
無理に折り曲げられたような不自然な状態です。
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ACジャックごと取り出してみます。
本体に嵌め込まれているだけです。
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ACジャックは、いくつかの表面実装抵抗器と
ともに配線フィルム面に半田付けされています。
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乾電池からの電源は、いったんACジャック内の
接点を経由して回路に接続されているはずです。
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フレキシブル配線が折れ曲がっていることが気になり、
フィルムの裏側(部品実装面)を詳細に調べます。
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電源が供給されない原因を発見しました。ACジャックの端子が半田付けされている
配線(銅箔)が、見事に破断しています。フィルムが折れ曲がっているすぐそばです。
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破断を修復するため、ACジャックをいったん
取り外します。2か所の半田を溶かします。
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残る1か所は、配線パターン(銅箔)が
切れているので端子に付いてきます。
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何か不具合を修理しようとしたのでしょうか。その際、配線
パターンが切れるほどフィルムが強く曲げられたようです。
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ACジャック端子に残っていた破片です。
元に戻すことができれば良いのですが。
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作業しやすくするためフレキシブル配線を
セロハンテープで本体に仮固定します。
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破断した元の配線パターンを、レジストの
一部を剥がして半田付けに備えます。
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脱落した破片側も半田付け
しやすいように整えます。
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配線パターン側に少量の
半田を盛り付けます。
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破片の下に瞬間接着剤を入れますが、耐熱性に
乏しいので半田付けに耐えられるか心配です。
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ACジャックの端子を半田付けします・・が、
熱を加えた瞬間に破片が落ちてしまいます。
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破片の修復は諦めます。元々端子に接続されていた配線
(黒色ビニル線)を、配線パターン側に延長することにします。
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隣接する表面実装抵抗器の端子を利用します。電源の回路接続的には
元の配線と全く同じです。問題が解決しました、回路に電源が供給されます。
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元通りに組み上げます。再度動作確認を行うと、在庫品を流用したゴムベルトが微妙にミス
マッチのようです。径がやや太いことと、サイズ(外周長)も少し短いため、「張り」がきつく
なりモーターの回転負荷が増大しているようです。モーター自体の経年劣化もあるでしょう。
再生が微妙に安定せず、モーターに一定以上の負荷がかかると再生音にノイズが混入します。
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後日、ご依頼主からもう1台ウォークマンが届きました。
色違いなので内部ユニットを交換できないかとお考えです。
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WM-10ですが外側カバーは互換性があります。
結果的に2台とも修理を完了しお返ししました。
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