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ウォークマンWM-20映画の小道具に(2019.3.2)


世田谷にある有名な映画製作会社、
その美術担当様からのご依頼です。

 


古いカセットウォークマンを修理して欲しいとのこと。映画なのか
テレビ番組なのか、そこで小道具として使用されるそうです。

 

さすが美術ご担当だけあって、梱包が丁寧かつ
厳重です。よほど重要なアイテムなのでしょう。

 

完全に動作するウォークマンで、しかも
ピンク色でなければならないそうです。

 

外観的にはほとんど汚れも傷もなく、古びた印象は感じません。スタイリッシュに
デザインされた本体は現在でも通用するでしょう。ですが、全く動作しないそうです。

 

型番を確認します。WM-20、1983年(昭和58年)
発売、CMにデビュー3年目の松田聖子が起用されました。

 

テープ非収納時のサイズがカセットと
同サイズ、操作ボタンが斜めに並びます。

 

テープをセットするにはホルダーを一段
下方向に引き出します(スライドイン方式)。

 

ホルダーのカバー部分を上に
開けてテープをセットします。

 

UM-3乾電池1本(1.5V)で駆動させるため、
回路やモーターが大幅に改良されています。

 

実際に乾電池をセットしてみます。
お聞きしていた通り全く動作しません。

 

単純な原因から探っていきます。乾電池
ホルダー金具の接触は良好でしょうか。

 

マイナス極側の金具に腐食が見られます。
弾性も低下し乾電池の固定に不安があります。

 

乾電池ホルダーに不安があるので
外部電源用端子を利用します。

 

電源を接続するも何の反応もありません。
回路に電源が供給されていないようです。

 

分解して内部を点検します。当時のウォークマンは極薄の
アルミ合金製ボディが小ネジで組み立てられています。

 

全てのネジに精密ドライバーが必要
です。テープホルダーが外れてきます。

 

片方向再生のシンプルなヘッド、ピンチローラー、
キャプスタンが並びます。特に劣化は見られません。

 

PLAYボタンを操作してみます。ヘッドと
ピンチローラーが所定位置に出てきます。

 

さらに本体カバーを外します。本体外に
取り付けられた音量調整ツマミが邪魔です。

 

ピンセットの先を穴に入れて回転させ
ツマミの固定ネジを緩めます。

 

音量目盛りが刻印されたツマミを外し
ます。真下に可変抵抗器が見えます。

 

本体カバーは4本の小ネジで
内部ユニットに固定されています。

 

内部ユニットが浮き上がってきます。
微細な構造なので慎重に分離させます。

 

側面にテープタイプ選択とドルビーのスイッチがあり、
小型パーツがスライドスイッチを外部に中継しています。

 

ゴムベルトが完全にダメです。モーター回転軸のプーリーから脱落し、
伸び切ってヨレヨレの状態です。純正相当品の入手は難しいでしょう。

 

よれた状態でゴムが固着しかかっています。
脱落してから相当の時間が経っているようです。

 

0.8mm角くらいの極細ベルトです。工房の
在庫品に近いものがあると良いのですが。

 

ひと回り太いものですが、何とかサイズの合う
ものがありました。ぎりぎりプーリー溝に入ります。

 

軸受の滑りが一様に鈍化しています。
ギヤの隙間から微量の潤滑剤を入れます。

 

SONY渾身の超扁平薄型モーターです。ステーターの
内部にゴミが入り込んでいないか点検します。

 

軽くエアーでブローしておきます。
特に問題はないようです。

 

電源が供給されない原因がまだ判明しません。電源回路およびモーター駆動回路が
組み込まれた基板です。一部にフレキシブル配線が用いられています(写真左下)。

 

ACジャック横のフレキシブル配線です。
何故か中央で折れ曲がっています。

 

最初から曲がっているのではなく、後から
無理に折り曲げられたような不自然な状態です。

 

ACジャックごと取り出してみます。
本体に嵌め込まれているだけです。

 

ACジャックは、いくつかの表面実装抵抗器と
ともに配線フィルム面に半田付けされています。

 

乾電池からの電源は、いったんACジャック内の
接点を経由して回路に接続されているはずです。

 

フレキシブル配線が折れ曲がっていることが気になり、
フィルムの裏側(部品実装面)を詳細に調べます。

 

電源が供給されない原因を発見しました。ACジャックの端子が半田付けされている
配線(銅箔)が、見事に破断しています。フィルムが折れ曲がっているすぐそばです。

 

破断を修復するため、ACジャックをいったん
取り外します。2か所の半田を溶かします。

 

残る1か所は、配線パターン(銅箔)が
切れているので端子に付いてきます。

 

何か不具合を修理しようとしたのでしょうか。その際、配線
パターンが切れるほどフィルムが強く曲げられたようです。

 

ACジャック端子に残っていた破片です。
元に戻すことができれば良いのですが。

 

作業しやすくするためフレキシブル配線を
セロハンテープで本体に仮固定します。

 

破断した元の配線パターンを、レジストの
一部を剥がして半田付けに備えます。

 

脱落した破片側も半田付け
しやすいように整えます。

 

配線パターン側に少量の
半田を盛り付けます。

 

破片の下に瞬間接着剤を入れますが、耐熱性に
乏しいので半田付けに耐えられるか心配です。

 

ACジャックの端子を半田付けします・・が、
熱を加えた瞬間に破片が落ちてしまいます。

 

破片の修復は諦めます。元々端子に接続されていた配線
(黒色ビニル線)を、配線パターン側に延長することにします。

 

隣接する表面実装抵抗器の端子を利用します。電源の回路接続的には
元の配線と全く同じです。問題が解決しました、回路に電源が供給されます。

 

元通りに組み上げます。再度動作確認を行うと、在庫品を流用したゴムベルトが微妙にミス
マッチのようです。径がやや太いことと、サイズ(外周長)も少し短いため、「張り」がきつく
なりモーターの回転負荷が増大しているようです。モーター自体の経年劣化もあるでしょう。
再生が微妙に安定せず、モーターに一定以上の負荷がかかると再生音にノイズが混入します。

 

後日、ご依頼主からもう1台ウォークマンが届きました。
色違いなので内部ユニットを交換できないかとお考えです。

 

WM-10ですが外側カバーは互換性があります。
結果的に2台とも修理を完了しお返ししました。

 
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